その湖畔の森へ一歩足を踏み入れた途端、奇妙な違和感を感じた。
視界がグニャリと歪んだように平衡感覚にズレがある。
樹々の間の枯葉の小径をゆっくり歩いてゆくが、その原因ははっきりしない。
湖畔の風景はいつもとさほど変わらず、立ち止まって景色を楽しむ。
「キューッ、キューッ・・・」
鳥の声・・・いや、目の前の樹だ。
根元が曲がり、隣の樹にもたれかかっている。
風が吹くたびにこすれて鳴いている。
中が空洞になった幹の根元もそのたびに「ボコッ」と不気味な音を立てる。
この森の病だ。
「カシノナカキクイムシ」
無数のわずか数ミリの小さな昆虫が樹に卵を産み、
幼虫は樹木を中から食い荒らす。
樹には無数の穴が空き、その下には大量のおがくずが落ちている。
「もう、この樹は終わりだ・・・」
この森のほとんどの樫やナラの足下に木屑が落ちている。
この森は病んでいる。
小さな虫によって消えてゆこうとしているんだ。
樹に触れてみると樹皮は力なくへこんでしまう。
「この森は、樹々は死んでいくのかい?」
・・・私たちは土になるんだよ。豊かな土になって新たな森の土壌になるんだよ。
「なんとか助からないのかな」
・・・この土地は浄化されるでしょう。虫たちはそれを早めているだけだよ。
「なぜ浄化が必要なんだ?人間のせい?」
・・・・・・。
答えはなかった。
ただ、新しい森は一から作られることを
小さなドングリが示しているようだった・・・
僕たちは森の声に耳を傾けることが必要だ。
森は僕たちよりはるかに長い時間を生き、
その知るところは僕たちの知識では計り知れない。
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