2011年11月24日木曜日

死にゆく森




その湖畔の森へ一歩足を踏み入れた途端、奇妙な違和感を感じた。
視界がグニャリと歪んだように平衡感覚にズレがある。
樹々の間の枯葉の小径をゆっくり歩いてゆくが、その原因ははっきりしない。
湖畔の風景はいつもとさほど変わらず、立ち止まって景色を楽しむ。
「キューッ、キューッ・・・」
鳥の声・・・いや、目の前の樹だ。






根元が曲がり、隣の樹にもたれかかっている。
風が吹くたびにこすれて鳴いている。
中が空洞になった幹の根元もそのたびに「ボコッ」と不気味な音を立てる。
この森の病だ。
「カシノナカキクイムシ」
無数のわずか数ミリの小さな昆虫が樹に卵を産み、
幼虫は樹木を中から食い荒らす。
樹には無数の穴が空き、その下には大量のおがくずが落ちている。
「もう、この樹は終わりだ・・・」
この森のほとんどの樫やナラの足下に木屑が落ちている。
この森は病んでいる。
小さな虫によって消えてゆこうとしているんだ。




樹に触れてみると樹皮は力なくへこんでしまう。
「この森は、樹々は死んでいくのかい?」
・・・私たちは土になるんだよ。豊かな土になって新たな森の土壌になるんだよ。
「なんとか助からないのかな」
・・・この土地は浄化されるでしょう。虫たちはそれを早めているだけだよ。
「なぜ浄化が必要なんだ?人間のせい?」
・・・・・・。
答えはなかった。
ただ、新しい森は一から作られることを
小さなドングリが示しているようだった・・・


僕たちは森の声に耳を傾けることが必要だ。
森は僕たちよりはるかに長い時間を生き、
その知るところは僕たちの知識では計り知れない。




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