循環

自然の循環のなかで死は大切な要素です。
生命は死を受け止めることで
充分な生を営めるのです。
死と分解の過程にも祝福はあります。
そこに美を感じることができるなら
地球の生命の奥深い奇跡に
近づくことができるでしょう。

巨木

樹の生命がどれほどのものか、
この私の姿で知ることができるでしょう。
幾歳月の間、雨・強風・大雪・そして落雷・・・
あなたたちには想像もつかない試練を乗り越えて
私は今、この大地に踏ん張っています。
私がここに踏ん張っているのは
ただ生き残るためではありません。
巨木に与えられた仕事をなしてゆくには
こうして次の世代が育つまで踏ん張らねばならないのです。
植林された若木には成すことの出来ない巨木だけの仕事、
大地に深く根付いて初めてできる仕事があるのです。
あなたたちが巨木にしかできない仕事について知り
巨木を大切にすることは
今、この時代に非常に重要な意味を持っているのです。

杉の林

私たちは人の手で植林された杉・・・
それでも私たちは土壌に水分を保たせ、
樹々の香りで空気を満たす、
この山の皮膚となります。
深く辺りを満たす山の霊気・・・
私たちを通して立ち現れた精霊の気配・・・
感覚を研ぎすまし、そっと感じてみてください。

月蝕

翳りゆく月に誘われて
今宵、夜空を見上げた人も多いでしょう。
太陽と月、そして地球の運行を感じることのできる
数少ないひととき、あなたは何を感じたでしょう
物理の法則だけでは語れない神秘が
静かな風、草むらの虫の音とともにささやきかけて
いつの間にかあなたを日常とは異なる
遠い時空へ誘ってくれたことでしょう

誘い

私たちのことばを感じ取るには
まず私たちのいる自然の領域のリズムに
あなたが同調することが必要です。
町に棲み人工的なリズムに浸っているままでは
私たちの声をあなたに届けるのは困難です。
何度も何度も自然のなかへ出かけ
ゆったりとした時間を過ごしてください。
そうすればいつか、
あなたの心に触れる私たちの戯れを感じるでしょう。
そう感じるとき、
あなたは私たちの世界の入り口へ招待されているのです。

キツツキ

私たちと樹々の関係は一見すると
珊瑚の海の魚たちとその体の寄生虫を取る
クリーナーシュリンプの関係にも似ています。
私たちはクチバシをドラムのように使い
樹木の中に潜む虫を探り当て
素早く樹木から取り除いてあげるのです。
私たちは樹に穴を空け、そのなかで生まれ育った
樹の子供でもあることを忘れることはありません。
だからこそ、その一生涯を樹木と寄り添って
樹木とともに生きるのです。

そうして人もまた森に生かされていることに
気付くことが必要です。
人が樹木に寄り添って生きることを決めれば
世界はどれほど変化することでしょう！

精霊

耳を澄まし、森の芳香を感じ、
この奥に潜むものへ
そうっと目をやりなさい。
そこにはあなたを見つめるいくつもの眼が
静かに佇んでいます。
あなたがいったい何者なのか、
ひとの世界とは異なる瞳が
そっと見つめ、待っています。

異世界

私の見る世界と
あなたの知る世界の間には
おおきな隔たりがあるでしょう。
しかし、あなたには感じる力が備わっています。
私を見て心の深みで感じてください。
私がどんな世界で深い喜びとともに
生きているのかを・・・

さえずり

山に響く私の歌声
遠くあなたの耳にも聴こえるでしょう
さあ、耳を澄ませて感じてください。
眼を閉じ、私の声にそっと耳を澄ますなら
あなたの心も清らかに澄み渡ることでしょう。

存在

朽ち、流され、削がれてゆき、
それでもなお、わたしはここに存在します。
いつかすべてが削がれ消えてゆくまで
樹の生命の痕跡を携えて・・・
風化というプロセスがわたしを削ぎ
風雪・川の流れのなかで朽ち
大地と同化するその日まで・・・