以前、バイクにテントとカメラを積んで北海道を旅したことがある。
旅の後半、知床に辿り着きキャンプ場でテントを張る。テントを張るとき、僕はいつも小高い丘になった所を選ぶ。それは雨のときテントに雨水が入るのを避けるためだ。このときも僕は大きな樹の側の小高い部分を気に入ってテントの設営を始めた。テントを張り少し離れて眺めたとき、なんだか変な気分になった。なんとなく居心地が悪いような気がして、テントの位置をずらしてみた。「う〜ん・・・」もう少しずらしてみる。丘の端っこになり、さっきの方がいい場所のようにも感じる。「まっ、いいか!」
これが僕の命の分かれ目とは、思いもよらなかった。
数日後、台風崩れの低気圧が知床を直撃、キャンプ場にも強烈な風が吹き荒れた。
ほとんどのキャンパーは撤収し、残るのはほんの数人。僕はテントの張り綱をしっかり張り直し、強風の中テントで一夜を過ごした。夜半を過ぎ、時々風に折れた小枝が「ビシッ!」とテントにぶつかってくる。隣のテントは風でフレームが変形している。
「ブゥオン!」風が固まりになって襲ってくる。
「ドンッ!」「バサッ!」
テントに大きな枝が触れた。
外には太さ30cm以上、長さ7〜8mもある枝が根元から折れて落ちていた。
そう、僕が最初にテントを張った場所を直撃して・・・
偶然と言っていいのだろうか・・・
予感? それとも誰かに導かれて?
多くの人が何らかの形で経験していることだろう。
僕たちの棲む世界はどのような構造をしているのだろう、僕たちの知らない何者かがこの世界を、そして僕たちを導いているのだろうか?もし、そうとすればそれは一体どこへ向かっているのだろう。
おぼろげにイメージすることはできる。
僕たちは茫漠とした道を迷いながら歩いている。冒険と失敗、出会いと別れを繰り返して、そしてどうしても危ないとき、何かがほんの少し道を修正してくれる。
あのとき僕はまだ死ぬときではなかったのだろう。
僕は今も生きている。道に迷い、僕自身の道を探して歩いている。
僕の命が終わるとき、「よくここまで辿り着いたね!」と迎えてくれる何者かの存在を漠然と感じながら・・・