僕たちにとってこれらの言葉や国の在り方はいつからか途方もなく遠い出来事のようにしか感じられなくなってしまったのではないか。
貧しいけれど誰かが飢えたまま放っておかれることのない、自分より人の幸せを大切にする優しさと思いやりのある社会。
僕たちの社会が失ったのは単なる優しさや思いやりなのだろうか?
西洋化のなかで僕たちが得たもの、それは物質的な豊かさであり現実世界での経済大国としての存在感だ。
西洋化のなかで僕たちが捨てたもの、それは精神性であり心や魂の深みで世界を見つめ生きてゆく人間の本質に関わるものだろう。
ブータンで人々が心豊かに生きているのは人はいずれ死ぬがそれで終わりではない、来世があり、再び人々とともによい人生を生きることができる。そのときのためにも人とともに心豊かに生きようという信仰があるのだ。そのためブータンには墓がないそうだ。49日で人は再び生まれ変わる。それなのに墓など何の用があるのだ。
永遠に残る石の墓を作り、死を絶対的な悪として忌み嫌う西洋の価値観・・・。
現在の金融危機も少し前の石油や食料の高騰もすべて死を忌み嫌う、死をすべての終わりとする世界観がその原因として根底にあるのではないか。
僕たちはブータンのような世界に戻る必要はない。
僕たちに必要なのは今までの西洋的な価値観やすでに捨ててしまった東洋の伝統を超え、そのすべてを内包する新たな世界の文明を築き上げることだ。